化学者でも間違えるごみ分別――AIは「知識への橋渡し」になれるか

「あなたは、ごみを正しく分別する自信がありますか。」

この問いに「はい」と即答できる人は、意外と少ないのではないだろうか。

私は大学で化学を学び、現在も化学分析の仕事に携わっている。しかし、その私でさえ、ごみの分別に迷うことがある。

「化学を知っているなら簡単なのでは」と思われるかもしれない。しかし、実際にはそうではない。

化学を知っていても難しい理由

例えば、ボールペンを思い浮かべてほしい。

一見すると一本の文房具だが、本体はプラスチック、先端は金属、内部にはインクやバネなど、複数の素材から構成されている。

電化製品になるとさらに複雑だ。

金属、プラスチック、ガラス、電子基板、ゴム、電池など、多種多様な素材が組み合わさって一つの製品になっている。

つまり、ごみは「一つの材質」ではなく、「複数の材質の集合体」である。

さらに難しいのは、分別は素材だけで決まるわけではないことだ。

自治体によってルールが異なり、同じ製品でも地域によって分別方法が変わることがある。

つまり、ごみ分別とは、

  • 製品の構造を理解する知識
  • 材質の知識
  • 自治体ごとのルール

これらを組み合わせて初めて正しい判断ができる作業なのである。

これは決して簡単なことではない。

「人間が悪い」のではなく「社会が複雑」なだけ

ごみ分別が難しいのは素材の問題だけではない。そもそも現代社会全体が、個人の記憶容量を超えて複雑になっていると私は感じている。

ここで一つ、ごみの分別が難しいと聞くと、

「分別表を読めばいい。」

という意見を取り上げたいと思う。

もちろん、それももっともな意見の一つだ。

しかし私にとっては分別表を見て確認するのは一苦労だ。多くの人もそう感じたことがあるのではないだろうか。現代社会は、人間がすべてを覚えて生活するには複雑になりすぎている。ごみだけではない。

  • 税金。
  • 行政手続き。
  • 法律。
  • 医療。

どれも知っていれば、または調べれば、判断できるがすべてを確認し続けることは現実的ではない。社会が高度化し、私たちが扱う情報量そのものが増えた。すべてを人間一人ひとりが確認する方法には、すでに限界が近づいているのではないだろうか。私は、ごみ分別はその象徴的な例だと思っている。

AIは「人間の代わり」ではなく「知識への橋渡し」

「人間の仕事を奪う。」

というAIの話が多いが、ごみ分別について考えると、少し違う姿が見えてくる。ここでAIが代わるのは、人間そのものではない。人間にとって、覚えるほどでもないが複雑である、情報を瞬時に整理する作業である。

これはあくまで一つの構想だが、スマートフォンでごみを撮影する。AIが製品を認識する。利用者の住んでいる自治体を判定する。その自治体のルールに照らし合わせる。するとAIは「燃えるごみです」「不燃ごみです」「資源ごみです」というように、即座に答えを返す。さらに、その理由まで表示することができれば、利用者は覚えなくてもよい。必要なときに、正しい情報へアクセスできる。私は、このようなAIの使い方こそ、本来の価値の一つではないかと思う。

「AIは間違える」という反論について

ここで必ず出てくる意見がある。「AIは間違える。」確かにその通りである。しかし、人間を考えるとどうだろう。人間も間違えることもあれば、分別表を見落とすこともある。さらにルール変更に気付かないことや、面倒だから適当に捨ててしまうこともある。つまり、比較対象は「完璧なことができるもの」ではなく、現実の人間なのだ。

重要なのは、AIが100%正しいかではなく、AIを利用することで社会全体の分別精度が上がるかどうかである。私は、この視点で評価すべきだと思っている。

なぜ全国で普及しないのか

ここまで読むと、「そんな仕組みがあるなら、なぜ全国に普及していないのか。」という疑問が出てくる。私は、その理由は技術よりも仕組みにあると考えている。仮にAIが完成しても、自治体ごとに個別開発していては効率が悪い。同じような仕組みを何度も作ることになる。

そこで私が提案したいのは全国共通のAI基盤である。AIそのものは全国共通にし、メーカーは製品情報を登録する。さらに自治体は分別ルールだけを更新する。その下準備を行い、利用者は写真を撮るだけ。この形なら、多くの自治体が利用できる。さらに、新しい製品が発売されても、情報を一か所で更新できる。私は、このような仕組みは社会インフラになり得ると思っている。もちろん、ここまで来ると国の協力も必要になるだろう。しかし、それだけの価値はあるのではないだろうか。この仕組みが使えるようになると、私は初めて、「あなたは、ごみを正しく分別する自信がありますか」の問いに、『はい』と答えることができる気がする。

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